立っているだけなのに、まだ風景も体もゆれています。右足に力が入らないので歩くのに相当力が要ります。左足だけで歩いている感じなのです。
身体は、動くとものすごく疲れるらしく、横になると地球にのめり込んでいくくらいグッタリして、もう起き上がれません。トイレに行くのもやっとで「あーまたトイレに行きたくなってしまった。人間ってトイレに行く行為はどうしてもなくならない。」と思いながら、やっと立ち上がるのです。
入り口が1段下がっている家のトイレは、私の右足にとっては、まるで奈落の底に落ちるようでした。
大好きな蕎麦を食べるとき、右手で箸を持ちどうにか挟んでも、蕎麦がブルンブルンと回ってしまいます。こうなるともう笑うしかないですね。
1ヶ月自宅療養した後、仕事に復帰しました。まず、家のドアを開けると、門まで歩きやすいように飛び石があるのですが、私にはとても歩きにくく、その四角い石に足を合わせる事がとても難しいのです。バス停まで行けたら今日の通勤の四分の一は無事に終わったと思うことにしていました。
次はバスに乗り込むのです。意外にバスのステップは高く、あがりながらパスモをかざすのは難しく、雨が降っていた場合は傘をたたむ行為が重なりますから、余計に私には難しいのです。ですから、バス停では傘を早めにたたんで、雨に濡れながらバスを待っていました。
電車に乗るときも大仕事です、バスを降りてエレベーターまで歩いて行くのですが、到着すると100メートルを一気に走り抜けたように心臓がバクバクしています。
マリオネットのような私の右足は電車から降りるときも、高さの認知を間違えているので、何かをつかんでいないと転びそうになってしまいます。
それで毎日「今日もまた冒険だ!」と言って玄関のドアを開けていたのです。
考えてみれば障害が無くても、ドアの向こう側は「毎日が冒険。」ですね。